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2013年2月11日 (月)

地震予知失敗は罪 その7

  「科学不信」の碑

 元旦に、島村英紀氏からメールが入り、つららの写真の年賀状が添付で付いていた。

 あ、そうだ。日本行きがあったりして、彼のサイトを長いこと覗いていないな。さっそくにホームページに入り、更新記録を開けたところ、「イタリアの地震予知裁判――他人事ではない日本の体質」というタイトルの記事が出ていた。1月2日とあるので、時差のためとはいえ、翌日の日付である。数時間前に出たばかりなのだろう。

 内容はラクイラ裁判のことである。この記事の中に引用された東京新聞の日付を見て、あれっ、と思った。10月23日とある。上田先生から送られてきた前掲のメールの日付けの2日前、ニュースになりたての新鮮な情報だったわけだ。ありがたいことである。

 ラクイラ裁判経過の紹介の後、「じつは、かって日本でもほとんど同じことが起きた」と、桜島噴火の話を書いている。大木聖子氏の記事の中にもある大正時代の噴火のことである。二人の地震学者が取り上げているからにはと、私もネットで調べてみた。

 1914年1月12日に桜島が爆発的噴火を起こし、流れ出た溶岩流はそれまで隔てられていた大隅半島との間の海峡を埋め、陸続きとした。数日前より続いていた噴火の予兆は島の住民を怯えさせ、避難する者も続出した。ところが東桜島村の村長は、鹿児島測候所(今の鹿児島気象台)に数回にわたって問い合わせたものの、噴火の恐れなしとの回答を得、むしろ島民の避難を思いとどまらせる側に回った。当時の火山学者らは、桜島を休火山とみなしていたようである。そのおかげで、村長の言葉を信じた百数十名の島民が犠牲者となった。

 そのことを悔いた村長は、後世への教訓となる碑を建てることを念願したが、果たさずに死ぬ。彼の志を継いだ次の村長が、10年後の1月に石碑を建立。碑文に「住民は理論を信頼せず、異変を認知する時は避難せよ」という内容の部分があることから、「科学不信の碑」と言われる。

 東日本大震災においては、気象庁による津波の高さの予測や堤防に対する過信から逃げ損なった例が数多く出たとも言われる。村長らの残した教訓は今も古びてはいない。

 島村氏は、ラクイラ事件や大正時代の桜島噴火に言及した後、東海地震の地震予知体制への危惧を次のように述べる。

[私は、この地震予知が可能かどうか、強く疑っているが、東海地方の約30ヶ所に埋められた体積歪計のデータで地震予知がなされることになっている。阪神淡路大震災が起きたあとも、また東日本大震災が起きたあとも、政府の公式見解は「東海地震だけは予知できる」というものだからである。 しかし、いったん「宣言」が出されてからすぐに東海地震が来なかったらどうするのか、その方針はまったく決まっていない。他方、宣言を取り消せる科学的な根拠や方程式はなにもない。そして新幹線や東名道路が止まり、静岡県などが孤立した状態は経済的にも人心にも打撃が大きく、それを何日も続けるわけにはいくまい。 こうして「判定会」の科学者の委員や気象庁の政府委員が、たとえ迷いながらでも、たとえ渋々でも、「安全宣言」を出す。しかしそのあとで東海地震が襲ってきたら、どうなるのか。イタリアとまったく同じことが起きるに違いないのである。]

 地震予知というのは、可能かどうかだけではなく、多くの問題をその周辺にはらんでいる。

 それにしても、二人の地震学者が揃いも揃って、なぜ「大森房吉と今村明恒」ではなく、「大正の桜島噴火」なのか? ラクイラの「安全宣言」への前例としてならば、前者の方がはるかに相応しい。大木氏が知らなかったということはあり得るだろうが、島村氏はご自分のホームページで扱っているのだから、知らなかったはずはない。日本地震学史における偉大な科学者に対する無意識の遠慮があったのかもしれない。

<追記> 島村英紀教授より以下のコメントをいただいた。「顔が似ている」という場合と同様、事件の場合にも、着眼点により差が出てくるものである。 

[上記の件、今村明恒と大森の件は、あえて長周新聞には書かなかったのは、今回のテーマは「国家(イタリアにせよ日本にせよ)の地震政策(あるいは火山政策)」ということに絞ったからです。なお、今村明恒と大森の葛藤は、国家政策ではなく、また、すでに http://www5.pf-x.net/~shima/kiyou-imamura.htm 書いていますので、重複させなかったこともあります。] 

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