« 2010年9月 | トップページ | 2010年11月 »

2010年10月

2010年10月24日 (日)

清張氏の、守られた約束 その9

  山脈は内部の溶岩の押し出す力で

  

「造山運動についても、彼らの説明は、矛盾に満ちています。北米大陸では進行の前面に山脈ができるのだと説明し、ヒマラヤでは大陸とインドとの衝突でできたと説明し、アンデス山脈では沈み込み口の背面には山脈ができるものだと説明し、一貫性がありません。

 だいたい、大陸移動という横向きの動きを、山脈の隆起という、垂直方向の動きに変えるシステムには、無理があります」

「そうだろうか。インドがアジア大陸の下に潜り込み、ヒマラヤ山脈を持ち上げた、という説明は私も読んだことがあるが、なかなかうまく説明してあると思った」

「先生、大陸の下に別の大陸が潜り込むなんて、そう簡単にいくとは思えません。摩擦って、大きな力です。地面の上の大きな岩を、転がすのではなく、引きずってみれば分かります。大陸の下を別の大陸がずれ動いていく、なんてことが可能だとは、絶対に考えられません。

 あるいは、風呂に入っている時に、二つの木片を浮かべて遊ぶ、とします。手で水をかき回して対流を作り、それらの木片を重ねられるでしょうか? 波立てることなしだったら、二つの木片を隣り合わせにすることはできても、重ねることは不可能です。

 つまり、インドがアジア大陸に接近するまでは仮にあったとしても、同じ比重、同じ浮力同士の大陸の、片方だけがもう一方の下に、潜れるわけがないのです。

 しかも、衝突したとされるヒマラヤの場合、ぶつけられたヒマラヤの方が、インド側に弓なりに出っ張って(第12図)います。車の衝突の場合ならば、アジア側に凹みそうなものです」

「なるほど。では、君はどう説明するのかね?」

「溶岩の塊であるヤスーンが落下して、海水で急激に冷やされて、表面に殻ができたのが、まず第一の段階です。それは隕石孔のような周りに高まりのある、水兵さんの帽子のような形(第13図)、とでも言いましょうか。

 やがて、内部の溶岩が更に冷却してくると、中央部に集まろうとするために、周りの高まりの内部は空洞化(第14図)し、やがて大陥没を起こします。これが第二の段階です。

 その後、第三の段階になると、大陸の中央部が更に冷却して、厚く重くなってきます。その大陸の重みが、内部の溶岩を大陸周辺部に押し出し(第15図)ます。その力が大陥没した地帯に働き、そこに溜まった堆積岩を持ち上げ(第16図)、山脈を形成します。凹んだペットボトルに水を入れて、圧を加えたとすると、完全に元通りにならないまでも、ある程度は凹みが直ります。それに似た状態です」

「………」

 清張氏の指の間の煙草が、線香のように垂直の煙を立て、灰の先端が、曲がって落ちそうになった。私の言葉を理解しようとして、考え込んでいるようであった。

「それ以外にも、地球の歴史における数々の現象が、ヤスーンの落下を仮定すると、うまく説明がつくようになるのです。私は地質学者ではありませんから、個々の現象を解釈しなければ、という欲求を持っていたわけではありません。ヤスーンの落下を思いついてから初めて、地球関係の本を買い出し、読んでいくうちに、あ、これも説明がつく、あれも説明がつく、という経験を何度も繰り返してきました。そうして、ヤスーンの落下は間違いのない事実だった、という確信を得るようになったのです」

「………」

 清張氏は無言でうなずいた。

2010年10月21日 (木)

清張氏の、守られた約束 その8

  中央海嶺は結果であり原因ではない

「大西洋のど真ん中に、中央海嶺と呼ばれる大山脈があります。現在の学説からは、そここそが対流の湧き出し口で、そこに湧き出した対流が、アメリカとユーラシア大陸とを分離したのだ、としています。

 ところが、丸い地球の内部に対流があったとしたら、池の中の泉のようにある一点で湧き出して、それが四方八方、全方向に広がっていきそうなものです。南北に長い直線状の湧き出し口(第10図)が、何故できなければならなかったのか、に対する説明は、全くないままです。

 しかもそれは、直線状ですらありません。たいていの場所では、弓なりに曲がっています。対流の湧き出し口が、何故弧を描いて曲がらなければならなかったのか? 

 私に言わせれば、彼らは原因と結果とを取り違えています。ヨーロッパやアフリカから滲み出した玄武岩の前線(第11図)が、中央海嶺を作ったのです」

「中央海嶺というのがどういうものかも分からないので、私には何とも言えないが、大陸が原因で、中央海嶺がその結果だという方が、確かに理屈が通っていそうな感じはする」

「ありがとうございます」

 私は、泪が出そうになるほどに嬉しかった。喜びを顔いっぱいにして、頭を下げた。

「いやいや、理解したというわけではない。そういう感じがしただけだ」

「それだけで充分です。なにしろ、今まで、真剣に聞いてくれた人すらいなかったですから」

「うむ」

2010年10月16日 (土)

清張氏の、守られた約束 その7

  花崗岩と玄武岩の差をうまく説明

「地球の岩石というのは、大きく二つに分類されます。白っぽい花崗岩と、黒い玄武岩です。安山岩というのは、その両者が混じりあったものです。例えば太平洋には、安山岩線と呼ばれる重要な境界線があり、その大陸側にだけ、安山岩、花崗岩があります」

 と言いながら私は、先ほどとは別の紙の裏に、安山岩線の位置を描いた(第9図)。

「太平洋の海底は玄武岩ばかりで、花崗岩や安山岩は全くない。つまり、大陸の岩石がごそっと削り取られた形になっている。ということが、月の飛び出た穴だからだ、と考えられたこともありました」

「………」

「花崗岩、安山岩は陸地に多くあり、粘性が高いです。これを多く含んだ溶岩は、激しく噴火することが多く、大きな被害を引き起こします。それに反して玄武岩は、さらさらして、噴火も爆発的ではないので、危険性が低いです。ハワイ島のキラウエア火山は玄武岩の代表例で、科学者が噴火口の近くまで寄ったりもできます」

 

「………」

「玄武岩の方が比重は重く、さらさらしていることもあり、世界中を覆い、軽い花崗岩がその上に浮いている、だから大陸は花崗岩でできている、と考えられています」

「ということは、大陸の深い所にも、玄武岩があるというのだろうか?」

11写真1

「証明されたわけではありませんが、そう考えられています。また、大陸の地表にも、玄武岩はあります。カリフォルニア州ヨセミテ公園の裏手に、デヴィルズ・ポストパイル、悪魔の材木置き場という玄武岩でできた名所(写真1)があり、花崗岩でできているヨセミテの岩石(写真2)と、好対照をなしています。黒い玄武岩が、その名の通り、材木置き場のように、立てかけた柱状に並んでいます。玄武岩というのは、冷えて固まる時に、その動きの方向に亀裂ができるらしく、各地の海岸に、浸食されて露わになっている縦の柱状の崖があります。

 

 逆に、花崗岩の方は御影石とも言われますが、岩石となる時に、こんもりしたお供え餅状に、丸くなります。また、ひび割れて、たまねぎ状に剥離します(写真3)。こうした二つの岩石の、基本的な違いに着目し、私は、ヤスーンが地上に落下した後、玄武岩だけが原始の大陸から滲み出して、世界中の海底に広がった、と考えています」

「………」

14写真2

16写真3

2010年10月14日 (木)

清張氏の、守られた約束 その6

  科学者に聞いてもらったか?

   

「ふーむ。なるほど。……それで君は、こういう話を専門家に聞いてもらったことはあるのかね?」

「はい。今から思えばまるで単細胞でしかないんですが、このアイデアを思いついたとき、科学者が聞いたら喜ぶに違いない、と考えたのです。彼らにとっての盲点とも言うべきことを、しろうとの私が偶然考えついたわけで、『我々がうっかりしていたことを、よく気がついたね』と、褒められるとばかり思っていました」

「で、どうした?」

 笑いながら清張氏が尋ねた。

「当時はサンフランシスコの私設体育館で掃除夫をしていて、今以上に貧乏だったのですが、借金をして帰国しました。アイデアを得てから3~4ヶ月経った頃です。当時愛読していた科学雑誌の、編集長を訪ねたところ、『うちの雑誌は、科学の世界における情報を読者に届けるためにあります。その世界でまだ認められていないアイデアを、載せるわけにはいきません』と言って、雑誌そのもので扱うことは、断られました。でも親切に、科学者を二人紹介してくれました」

「………」

「二人の科学者も、親切に対応してはくれたのですが、結果は似たりよったり。喜んでくれるとばかり期待していたのに、あてが外れ、失望してサンフランシスコに戻りました」

「それはそうだろう。学者がしろうとのアイデアを受け入れるのは、本当に稀なことでしかない」

「後になって、他にも、超一流の科学者たちに聞いてもらえるようになるのですが、その話は後回しにさせてください」

「よかろう」

「それからしばらくは、生計を立てるのに忙しかったです。仕事も変え、住まいも郊外に移し、そのアイデアについては、あえて考えないようにしていました。

 ある年、サンフランシスコに紀伊国屋書店がオープンし、自然科学の本も棚に並ぶようになりました。やはり気になるものですから、地学の本などを買い求めたりしました。

 ところがいくらそういう本を読んでも、自分のアイデアが間違っているようには思えませんでした。むしろ逆に、自信が増しました。というのも、大陸が、落下した天体の溶岩でできたとすると、地学の現象などが、非常にうまく説明できるからです」

「例えば?」

2010年10月 8日 (金)

清張氏の、守られた約束 その5

  大陸全体は円からはみ出す

「大陸移動説の提唱者のウェーゲナーは、かって、全ての大陸はくっついて一つになっていた……」

「パンゲア、とか言わなかったかね?」

「ええ、よくご存知で。では、パンゲアの図(第6図)をご覧になったこともあると思いますが、そのたった一つの大陸は、丸や楕円の、地球全体の中に納まっています。それで気づきにくいのですが、現在の大陸の大きさを一つにまとめたものは、地球を円で表わしたものよりも大きいのです」

「え? 地球の表面積の、4分の3ほどが海洋だと聞いたことがある。ということは、陸地は4分の1ほどのはずだ。それなのにどうして、地球の円より大きいのかね?」

「球体としての地球の表面積で言えば、陸地の総面積は、確かに4分の1強というところです。でも、地球の球体を2次元にした円、との比較で言うと、陸地の総面積の方が大きいのです。図で示します」

 と言いながら、大陸の図を描いた。

「これがユーラシア大陸、これがアフリカです。……アフリカは結構大きいので驚きます。……北米大陸は、この辺に、こういう形でつけておきましょう。……南米はこのへんかな。……南極大陸はアフリカの東隣りに一応置いておいて……オーストラリアも、インド近くに置いておくことにしましょう。……その上で、地球の大きさをまあるく円で示します」

 そう言い終わると、描き上げた図(第7図)の上下をひっくり返して、清張氏の前に置いた。北米大陸、ユーラシア大陸のかなりの部分が、円からはみ出している。

「2次元の円の面積と、3次元の球体の表面積との違い、ということかね?」

「ええそうです。ピザパイの生地のような円盤状の物体が、地球のような球体の上に落ちてきたとすると、球の周辺部では、ズレて着地することになります」

 私は、先ほどの図を描いた用紙を自分の前に戻し、用紙の端に、もう一つの図(第8図)を描いた。

「これは、この図(第7図)を横から見たもので……」

 と言いながら、前の図を指さし、次に、第8図にABと書き込んだ。

「このAの部分が北米大陸、Bの部分がユーラシア大陸です。Aの部分は、地球という球の端からはみ出したために、Bとは分離し……」

 両手を水平に目の前に突き出し、手の甲を上にして、両手の人差し指を合わせた。その上で、Aを意味する左手の甲を、下に垂直にずらした。そして、左手の小指側を内へと回転させ、架空の地球の見えない球を、斜め下から包み込むようにした。

「というわけで、平地に落下したとしたら繋がったままだったのに、球体の上に落下したために、ABとは大きくずれることになります。そのようしてできた大きなギャップ、それが大西洋、というわけです」

 そう言い終ると、図を再び、清張氏からの向きに置きなおした。

2010年10月 1日 (金)

清張氏の、守られた約束 その4

  

  大陸移動は何故起こったか?

「ふーむ。いったいそういうアイデアを、どうして思いついたのかね?」  

「1967年の11月、英文のリーダースダイジェスト誌に、大西洋の海底は太平洋のそれとは全く異質のものだ、と書いてある記事を見つけました。それは、大西洋の両岸の大陸が移動したからだ、というのです。 

 それを読んだ私は、そもそも何故大陸移動が起こったのだろう、と考えました。その頃はまだ、マントル対流などという考えがあるのを知らなかったからでもあります」

「ということは、君はこの問題のしろうとだった、ということかね?」

「はい、中学、高校で、地学の授業を取ったことすらありません。ただ、ビッグバン説を初めて言い出したことで有名な、ジョージ・ガモフの本が好きで、彼が書いたものから、月は地球から飛び出した、太平洋はその跡だ、という説があることぐらいは知っていました。それで、大陸移動の原因を考えた時に、まずそのことを思い出したのです」

「なるほど」

「太平洋が月の飛び出した穴だとすると、大陸は、その穴に落ち込むような形で動き出したかもしれない。そうすると、月を太平洋に押し込んだとしたら、アメリカ大陸は押し戻されるだろうか? ヨーロッパと、元のようにくっつくだろうか?」

「今あるあの月を押し込むのかね?」

「ええ、単なる思考の遊びとして、です。そうやって頭の中で、月を太平洋に押し込んだり引っ張り出したりしているうちに、大陸を動かすというためにだったら、何も太平洋にこだわらなくたっていい。小石をぶつけるように、巨大な隕石を斜め上空から、アメリカ大陸がもとあった辺りにぶつければいい。そうしたら、元の一つの大陸に割れ目ができ、アメリカ大陸は、ユーラシア大陸から分離する。……

 いや待てよ、大陸が隕石によって動かされたと考えるよりは、大陸そのものが巨大天体によってできた、と考える方が話は早い。……

 そうだ。隕石とか天体というと、そういうものはみんな固いものでできている、という固定観念にとらわれているけれども、もともとが軟らかいもので、空中で広がって、その形のまま落ちてきたと考えれば、大陸の形をうまく説明するじゃないか、と思いついたのです」

「ふーむ。面白そうだ」

「その後、いろいろな落ち方を考えてみました。生卵を地面に叩きつけるようにして、空中にあった時はまだ球体で、地上に落ちてから跳ねて広がった(第2図)とも考えられます。

 あるいは、空中で既にして分解し、ピザの練り粉を円形に広げたような形(第3図)になったまま、落ちてきてから跳ねた、とも考えられます。

 あるいは、その天体は空中で爆発(第4図)し、最初から現在の大陸のような形(第5図)に広がって、そっくりその形で落ちてきた、とも考えられます」

「それで君は、どういう形で実際に落ちてきた、と考えるのかね?」

「わかりません。いまだに決めかねています。でもどの形であれ、大西洋の両岸の相似は、大陸移動説がなくても、うまく説明できます」

「………」

(残念ながらまだ技術的に、イラストを描いて載せることができない。後日、図を付け足すつもりである)

« 2010年9月 | トップページ | 2010年11月 »